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腕時計紹介「グランドセイコー 62GS_6245-9001」

これは自分が腕時計に興味を持った初期の方にお迎えした時計だ。

自分は当時クオーツ時計だってG-ショックをはじめとした2.3本しか所持したことがなかった。そんな機械式時計童貞であった自分が最初の一本として選んだのが今回紹介する「グランドセイコー62GS」である。

 

62GS 6245-9001

 

グランドセイコーの歴史に通じている人であれば、またけったいなモデルを………とお思いのことだろう。

何を隠そうこの62GSは

と、個性てんこ盛りなのである。

あの美しいフォルムに一目ぼれし、買おうかどうか悩んでいたのだ。

最初の一本、何か特別なものを……!

そう考えているところに、こうも濃い個性をぶらさげられたんじゃたまったものじゃない。調べ上げた翌日には、隣県の質屋でご対面していた。

それと、国産アンティークはどれも値崩れが相当なもので、このモデルも当時は9万後半くらいの金額で買えた。

この低価格さで国産最高峰のグランドセイコー(アンティークだけど)を手に入れられるという喜びも購入の動機になった。

 

詳しい由来等々は後に回して、時計本体を紹介していこう。

 

まずはケースに注目してもらいたい。自分が一目惚れしたポイントでもあるのだが、のびやかに上下に広がるラグが優しく文字盤を包み込んだ曲線でケースを形作っている。リューズを4時位置に移し半ばケースに埋めるように配置したことも功を奏し、この緩やかな曲線を邪魔せずに上下へ流すとともに、左右対称なすっきりとしたスタイルを得ている。さらにベゼルレスにしたことで横だけでなく正面からもこの曲線が堪能できる。ベゼルレスの効果はこれだけではない。ベゼルに隠されないからわかるのだが、12時、6時位置のラグ間においてはこの時計で唯一艶消し処理がされている。そのせいで時計に光が当たるとき、ラグ間のみは静寂を保ち、ケースサイドの優美な曲線がより一層の輝きを返し、自己を主張する。この時計の神髄はこの曲線の妙にこそあるのかもしれない。

ラグ間が艶消し処理されている

この曲線、ふくらみに得も言われぬ艶(色気と表現してもいいかもしれない)を感じたのだ。それと、これはこの個体だけだろうが、長年の使用か外装研磨かは判別できないが、ケースのケースのエッジは完全に取れ、気持ち丸みを帯びている。ここも気に入っているポイントである。比較のためにグランドセイコーHPにあった当時の写真を載せる。

 

販売当時の62GS (GS HPより)

ケースサイドのエッジがバチバチに立っている。これはこれで凛とした鋭さ、美しさがある。がしかし自分は、エッジが丸まり、面と面の境界がなくなり同様に光を返すこともあれば、明確に違う面として異なる反射を示すその曖昧さ、そこがなんともゆるやかな曲線をもつこの時計のキャラクターに合っているような気がしている。

 

続いてダイヤルの方にも目を向けていこう。

実にシンプルである。ただ勘違いしてはいけないのが、決して簡素なのではなく、贅を極めたうえでのシンプルさでなのである。

今日日なかなかないほどに堂々とした太い針、そんな針に負けないほど立派なアワーマーカー。そのどれもが磨き上げられ光を捉える。夜光なんて野暮なものはついてない。ただ平面。その平面が返すきらめきが時刻を教えてくれる。ぼんやりとした光でもこのGSは放さない。必ず捉えて返す。夜光なんかなくても何の問題もないと、この時計は教えてくれるのだ。

さらに付け加えるならそのきらめき方であろうか。よく光を反射するのだが、決してギラギラと目に刺さる光ではないのだ。ぬらりとした光ーと表現すればよいのか、濡れているような、表面をすべる、なめるような反射をする。オラつきがなく、一歩引いて静かに品の良さを主張する光なのだ。

この光はダイヤルからも存分に味わうことができる。天使に目玉を舐め回わされたらきっとこんな感じなのかもしれない。そう思うほど、62GSのダイヤルは官能的な光を放つ。シルバーのサンレイ仕上げなのだが非常に細かく、やわらかい。おそらく経年変化の影響もあるとは思うが、実に柔らかなシルバーである。

この風格は間違いなく国産最高峰の「グランドセイコー」の名にふさわしく、製造から56年たった現在でも何ら変わっていない

 

と、ここまで褒めちぎってきたが、実は欠点も存在する。

1. 手巻き機構がない

この自動巻きムーブメント、手巻き機構がないのだ。これは4時位置にリューズがある理由にも関係しているのだが、この時計が世に出た当時は自動巻きの時計は開発初期で精度がでにくかったらしい。時計の精度=時計の価格であった当時は「精度が出やすい手巻きが高級品」、「精度は劣るが便利な自動巻きは普及品」というカテゴライズがあったらしい。そんなおり、自動巻きで高精度(グランドセイコー規格合格)を成し遂げ、カテゴライズをひっくり返したのが62GSであった。そのためセイコーは「自動巻きである」ということを殊更に強調したかったようだ。手巻きの象徴たるリューズを目立たないように隠すだけでは飽き足らず、手巻き機構自体も無くしてしまった。一度時刻を決めれば自動で動力は確保されるし、精度もいいから時刻合わせの頻度も少ないという目論見があったのだろう。試み自体は悪くないどころかデザイン的に大きなプラスになったと思う。手巻き機構を廃したことでリューズの持ちやすく(回しやすくする)必要がなくなり、薄く作れた。これが熱く前述したすっきりとした見た目に繋がったのだ。

リューズ引き出し 小さいが、時刻合わせくらいは苦にならない

この欠点はデザインの話ついでに紹介しただけで、自分自身はあまり気にしたことはない。アンティーク時計というのもあって甘やかして(月に数日とか)使っているので、使用頻度が多くないというのもあるが、この62GS、巻き上げ効率がめちゃくちゃよいのだ。当然個体差もだろうが、自分の個体はこうしてブログの撮影のために向きを変えたり持ち上げたりと動かしていただけで(静止状態から)4-5時間ほど動き続けていた。撮り直す時に驚いた。一度もゼンマイを巻いてやろうと思って振っていないのに、だ。

当然巻き上げが足りないと針を駆動させるトルクも弱まり、精度は出ないだろうから、使うときはちゃんと振ってやらねばだが、2.3分振っていれば十分な巻き上げにはなるだろう。

 

2. 厚い

自分がこの62GSに感じている唯一の欠点がこの厚さである。

ぷっくりとしたプラ風防もあるので、仕方ないところではあるのだが、62GSの厚さは12.5mmもある。これはシンプルな三針としては割とあるほうである。試しに手元にある(あった)ものたちと比較してみる。

  • オメガ シーマスター自動巻き(1970):10.9mm
  • セイコー ロードマチック(52系1975):10mm
  • タグホイヤー カレラ ツインタイム:12.5mm
  • ブライトリング コルトオーシャン:12.5mm

同年代の自動巻きと比べても厚く、最近のGMTウォッチや500m防水ダイバーといった機能付きと同等の厚みがあるのだ。

(ちなみにこの厚さは現代グランドセイコーにも引き継がれており、シンプルな三振モデルでも機械式であれば13mmはある。)

36mmという小径ケースとこの厚みからくるころっとしたつけ心地は気にすると気になる。腕に着けてもなんとなく浮いているように見えて収まりが悪いのだ。

36mm径で細腕にもマッチ ただ、厚みのせいで装着感はまあまあ

 

ただ、あばたもえくぼと言おうか、欠点も美点といえる。この欠点がなければ、他の時計をつける必要がなくなってしまう。結果62GSをヘビーユーズしてしまい、ケースの傷やムーブメントの摩耗を早めてしまうかもしれない。この欠点があるからこそ、他の時計に出会う機会を与えられ、62GSを大切に扱うことに繋がるのだと思う。

 

(だいぶ長くなったので、62GSの由来や歴史などなどはまた次の機会に……)